メゾンタヌジェラ 第四回内装コンテスト

倭国シャードで開催された、「メゾンタヌジェラ 第四回内装コンテスト」の作品一覧及び結果の紹介をさせていただきます。

イベント概要

同一テーマで5*5のスペース(PCハウス)を自由にカスタマイズ・内装し、一般投票によって優勝者を決める。

【主催者】 ぽん太郎&タヌジェラ(たぬー)
【投票方法】 投票箱
【今回のテーマ】 ダイニング

イベント日程

【開催場所】 倭国シャード Tニューマジンシア
【作品公開&投票開始】 2015/2/21(土)
【投票期間】 2015/2/21(土)開会式後~3/5(木)24:00
【結果発表】 2015/3/6(土)23:00

作品一覧及び結果

※入賞順、その他は作者名アルファベット順(敬称略)
※解説文はゲーム内の本に書かれたものを書き写したものです。

優勝

ivent_wkk-tanu4_koya.png 【作者】 コウヤ
【作品名】 傭兵たちのねぐら
【解説】
ウルティマオンラインの影の脇役という立場すら危うい、傭兵たちの寝室です。

新米の傭兵たちは、宿を取る金もないため、この共同部屋に押し込められます。
共同部屋での生活を通じて新米たちは、傭兵の規律を学び、連帯感を高めていくのです。

傭兵としての基礎を学び終えた彼らは、市街に繰り出し、雇用条件を声高に叫び続けて雇用主が現れるのを待つのです。
一度雇用契約を結んだ傭兵たちの働きは凄まじいものがあります。
雇用主へは鋼鉄のごとき忠誠を誓い、たとえドラゴンが相手でも命をかけて戦うのです。
そうして雇用期間が過ぎると、この共同部屋に戻ってきて泥のように眠るのです。

そしてたまに、戻ってこなかったりします。

道に迷った貴族の案内をして遠くまで行っているのか、支給された装備品を売り払って逃げ出してしまったのか、それとも……。

主がいなくなったベッドには、部屋隅の湿ったベッドを割り当てられていた住人が移ってきます。
代わりに、残されたわずかな私物が箱に詰め込まれて、部屋の隅の湿ったベッドの上に捨て置かれます。

命の危険にさらされ続ける傭兵たちの、ささくれ立った心を洗い流してくれるものは、アルコールをおいて他にはありません。
彼らは飯代すら削って酒を買います。
その飯代もないときは?
もちろん、同室者から麻雀で巻き上げるのです。
そうして買った酒は、大抵の場合みんなで回し飲みするので、口に入る量はそれほど変わらないのですが、麻雀で勝てば買う酒の種類は自由。牌をみつめる目は真剣そのものです。
ほら、今温めている最中のホットワインなんかは、室長がトリンシックで覚えてきた飲み方です。
この室長は近々昇格して二人部屋に移ることが決まっているので、きどった加熱スタンドはすぐにでも壁際のがらくた箱の仲間入りをすることでしょう。

かくも楽しき、ねぐらの暮らし。昇格して二人部屋に移るにせよ、脱落していなくなってしまうにせよ、いつか来るその日まで、共同部屋での暮らしは続くのです。

【うらばなし】
寝室というテーマで最初に思いついたのは、船員さんの寝室、船室でした。しかし、カスタマにある壁材では、船の内部っぽくすることがとても難しそうに思えたのです。
海がだめなら陸上で。兵舎のイメージへと切り替えて、この作品が生まれました。

狸賞(特別賞)

主催者たぬーさんが選んだ賞

ivent_wkk-tanu4_dewberry.png 【作者】 Dewberry
【作品名】 たんけんぼくのへや
【解説】
お越しいただきありがとうございます。
ヘタレな草食系男子の寝室を作りました。
想定している住人の性質は、「片付けは苦手、怖がり、未だに中二病、何事も形から入りがち、異性にはオクテ」です。なるべくこれらの性格が部屋から分かるよう心がけたつもりです。カバンや箱の中までどうぞご覧ください。

出展作品

ivent_wkk-tanu4_alize.png 【作者】 Alize
【作品名】 I lonely
【解説】
独りの猟師が住むトクノ地方の古民家。

普段は鹿や猪などの山の恵みを町に卸して生計を立てており
自分の獲った獲物を村人達は喜んで作物と交換してくれる。

別段、暮らしぶりに不満のない彼だが…。

独りでは囲炉裏も囲めず、もっぱら横になって酒と鍋をつつく毎夜を過ごす。

そろそろ嫁さんが欲しいと思う男が独り。

『あとがき』
今回は寝室がテーマ!ということで、眠れる寝床があったらそれは寝室だ。イイネ?

内装はむかーしむかし、とあるご隠居さんのために造った今は無き家を再現したものです。あまり日の目に触れなかったのを惜しんで、リメイクしてみました。
タイトルの「I lonely」は
あい、ろんりー ...
ぁい ろんりー ...
い ろりー ...
いろりー ...
 \ | /
― 囲炉裏 ―
 / | \

という駄洒落です。

みんな判ったかな!?

ちょっとIRORIが万能過ぎてどのテーマでも造れたんじゃねぇのという疑問もありますが...!

物資不足で再現できるか不安でしたがベンサーとたぬぽんのおかげで意外(?)と集まって満足いく内装ができたました!
ありがとうタヌじぇら!
ありがとう倭国!



ivent_wkk-tanu4_ashley.png 【作者】 Ashley
【作品名】 Bonsoir. Mademoiselle
【解説】
そんな
浮かない顔をして
何事がお悩みかな?

改めましてボンソワール。
さて、今回の作品はテーマとしては

『お嬢様の寝室』

で、ございます。

正直なところ私の個人的趣味を具現化するとこうなります。とにかくかわいいと美しいを基準に内装をしてまいりました。

女性であれば一度こんなところに住んでみたい。そんなイメージでしょうか?

まあ、物足りないなと思うところ、失敗したなぁと思うところ、多々あるのですが、今の私に出来るのはここまででしょうかね。

ぜひこのピンクなかわいい空間を楽しんでいってください。

あぁ、今回は裏テーマはございませんのでご注意を(笑)

冒頭も特に意味はございません。



ivent_wkk-tanu4_chobi.png 【作者】 Chobi
【作品名】 Prison Life
【解説】
寝室というにはアヤシイですが、今回は牢獄を作ってみました。

蛇口は壁のマスに無理やり埋め込んで設置しています…

囚人のボブは真面目に日記を書いているようですが、毛布の下に隠してあるポーチを覗いてみると…?



ivent_wkk-tanu4_guildus.png 【作者】 Guildus
【作品名】 安らぎの寝室
【解説】
コンセプトは「他の参加者と被らない!」で考えてみたのですが…。

うん。
なんてか「寝室…?」って感じデスヨネー。
むしろか「カタコンベ」と呼んだほうがしっくりくるね!

上下階の人にも迷惑掛け捲りだよね!
呻き声とかさー。

いや、もう本当にすいません。

反省はしています。

・・・が!

後悔はしていないっ!

絵画やアドオンのギミックに頼った、勢い任せの作品でございますが、あちこち弄り回してたくさんの血を流して頂けると本望でございます。

まぁ、色々書きましたが、ここはひとつ「吸血鬼の寝室」ってことで、勘弁して貰えませんかね…?



ivent_wkk-tanu4_pata-ame.png ivent_wkk-tanu4_pata-ame2.png

【作者】 Pata×ame*
【作品名】 to fall asleep
【解説】
to fall asleep
~いつか目覚めるその日まで~

2015年2月21日 快晴

今年のブリタニアは、いつもの冬とは様子が違う。
一度も雪が降らなかった。
窓辺においたヒヤシンスが、お日様を浴びてものすごく元気。
窓越しの陽はどんどん力強くなって、うっかりすると日焼けしそう。

窓越し?
おかしいな。
この部屋は隣の家に隣接していて、一日中陽が当たることはなかったのに。

気になって窓に近寄り、外の様子を伺った。

いつのまに、引っ越したのかな?
お隣の家は跡形もなく、遮るものが何もない土地が広がっていた。
代わりに越してくる人もいなさそうだ。

今日はカーテンを洗濯して、あの空き地に干そう。


2015年2月27日 晴れ

カーテンは綺麗に乾いた。
ここ数日お天気が続いたので、シーツも、ベッドカバーも、玄関マットも洗った。
おかげで部屋の中は、清潔な石鹸とヒヤシンスのいい香りで一杯だ。

これからどんどん暖かくなる。
もうすぐ本格的に春が来るんだ。

そうだ!
新しい服が欲しいな。
行きつけのあのオシャレなお店は、もうきっと春物の洋服で溢れてるはず。
柔らかで軽い色合いの、優しい感じのワンピースがいいな。
胸元に、チンチョウゲのコサージュなんか飾ったら、きっと可愛い。

朝ごはんを食べたら、早速出かけよう。


2015年3月1日 曇り時々晴れ

ワンピース、無かった。

正確に言うと、お店が見つからなかった。
何度もお買い物に行ってるお店だから、場所を間違えてるなんてことはありえない。
このお店も、どこかに引っ越しちゃったのかな…

わくわく膨らんでいた気持ちが、ぺしゃんこになった。

そうだ。
Pちゃんに聞いてみよう。
オシャレで情報通で、いろんなことを知ってる友達のPちゃんなら、なにか知ってるかも。
新しいお店に、連れて行ってくれるかも。

お店があった場所で、イヌフグリの群生を見つけた。
触ったら、すぐに花びらが落ちてしまう儚い花。
ワンピースの色は、この花の色にしよう。

Pちゃんと会うのも久しぶりだな。
お土産にクッキーを焼いて持って行こう。


2015年3月3日 曇り時々にわか雨

いったいどうしちゃったんだろう。

Pちゃんのお家は、無くなっていた。
彼女の家はとても裕福で、手入れが行き届いた立派な庭園があって、
部屋にはセンスの良い豪華な家具がさりげなく置いてあって、おまけに執事さんまでいたのに。

わたしに黙って、Pちゃんもお引っ越ししちゃったの?
何の連絡もくれないで、いきなりなんてちょっと酷いよ。

いつも二人で並んで腰掛けて、おしゃべりをしていた倒木だけが残されている。

今日はそこに一人でぽつんと座り、持ってきたクッキーを一枚齧った。
スミレの砂糖漬けを乗せた、春らしいクッキー。
一人で食べてもちっとも美味しくなかった。

涙が一粒、ポツっとクッキーの上に落ちた。
ポツポツポツ。
続けざまにクッキーを濡らしたのは、涙ではなくて雨だった。
クッキーは雨に濡れて、手の中でどろどろと崩れた。
砂糖が雨で溶けて、すっかり色あせたスミレが、ぽとりと地面に落ちていった。


2015年3月8日 乾燥した曇り

ゴホンゴホンッ。
雨に降られて、風邪をひいたみたい。

食欲もなくて、ポリッジを作って食べて数日を過ごした。
カモミールのお茶を飲んだら、随分楽になった。
でもそろそろ、買い物に行かないと食料が尽きてしまう。
卵もミルクももう無い。

あれ??
今日は何曜日だったっけ?
毎週土曜日には、調子はずれな歌を歌いながら、食料品店のおじさんが食べ物を届けてくれるはずなのに。
いつも迷惑そうな顔をした荷ラマを連れて。
最後にその顔を見たのはいつだっけ?

ガウンを羽織って、玄関先に置かれた受取箱を確認しに行く。
箱のなかは、空っぽだった。

ゴホンゴホンッ。
外の冷たい空気が喉を刺激する。
ガウンの前襟を合わせて、のろのろと部屋に戻った。

みんなどうしちゃったの?
わたしのこと、忘れちゃってるの?
身体が弱っているせいか、暗い気持ちに押しつぶされそう。


2015年3月9日 どんよりと曇り

おかしなことが、わたしの周りで起こっている。
そう思うしかない出来事が、立て続けに起きている。

今日は、街の銀行へ行った。

財産といえるほどのものはないけれど、なけなしの金品は、全てきちんと銀行に収まっていた。
対応してくれたのは、顔なじみのいつもの銀行員ではなかった。
灰色のローブですっぽりと全身を覆い、顔すらわからない人だった。
訝しく思いながらも、対応に問題はなく、慇懃にお辞儀をしてよこした。
深く屈んだときにフードが少しずれた。
灰色ローブの銀行員は、口の端をきゅっと上げて、確かに笑っていたような気がした。

銀行を出た時、銀行の向かいの裁縫店の店主と目があった。
彼は、ちらっと目配せをして、顎をくいっと店の裏手に向けた。
人目につかないところへ来いということだろうか。

一旦銀行から離れて、わざと遠回りをして、裁縫店の裏手に行ってみた。
案の定、銀行周辺にあった立派な店舗は、ことごとく消え去っていた。

裁縫店主は、悲しげな表情を浮かべて、こちらを見ている。
薄ら寒い路地に植えられたマグノリアの蕾は、硬く閉じたままだ。

「もう誰もいないんだ」
店主は苦しげにそう言いながら近づくと、わたしの手に錆びた小さな鍵を握らせた。

「あとは君が自分で探すんだ…」
低く小さな声で、言葉少なにそれだけ言うと、店主は何事もなかったかのように店に戻っていった。


【もう誰もいないんだ】

うすうす気がついていたことだった。
隣人が消え、店が消え、友人が消えていった。
残ったのは、わたしと、お芝居の配役のように振る舞うことを定められたNPC達だけ。

ワンピースは手に入らず、Pちゃんには会えず、食料は届かない。
皆もういないのだから。



2015年3月かな?

もう、日付も天候もどうでもいいのに、書き記そうとする自分が可笑しい。

この世界にたった一人だけ残されたわたしは、不思議と冷静な気持ちだった。
もっと泣いたり喚いたり、取り乱すかと思ったけど、そんなことをしても無駄だと思う分別はあったみたい。

自宅に戻ったわたしは、簡単に最低限の旅装を整えた。

水槽の魚を逃し、オウムを解き放ち、鉢植えの花々を庭に植え替えた。
活けてあった生花はドライフラワーになるように、逆さまにして部屋の壁に吊り下げた。
厩舎に預けたままのペット達も気になったが、彼らはわたしの財産が尽きるまでは、厩務員が面倒を見てくれるだろう。

窓辺のヒヤシンスは、もう枯れかけていた。
そっと花がらを摘み取り、球根を庭に植えた。
うまくいけば、来年も芽吹くだろう。うまくいけば。

買ってきたばかりの柔らかなパンと、白チーズと、自家製のワイン。
家にあった、干からびかけた野菜をかき集めて作ったスープ。
それらをテーブルに並べ、使いかけのろうそくに灯をつけた。
この家で過ごす最後の夜の、最後の晩餐。

ろうそくが燃え尽きるまで、ゆっくりと時間をかけて、それらの料理を平らげた。



2015年 多分もうすぐ本格的な春の頃

旅を始めて何日目だろう。
カーテンは閉めず、玄関ドアの鍵もかけず、テーブルの上のランタンに、一つだけ灯りをともしたまま、
わたしは自宅を後にした。

渡された錆びた鍵に合う何かを探して。
この鍵が、どこの何の鍵なのかすらわからないのに、そうすることしかできなかったから。

一つの街に着くと、街の中からその周辺をくまなく歩いて回る。
遺跡めいた場所や、墓地の奥。
それらしき錠前をみつけてば、片っ端から鍵を突き刺してみたが、全て徒労に終わっていた。

夜は、宿屋に泊まった。
くたくたになって、ベッドに潜り込む日々が続く。

NPC達は、静かにいつも通りに営業をしていた。
もしかして?と心のどこかで思っていた期待は全て裏切られ、わたし以外の人に会うことは一度もなかった。



2015年 花々が一斉に咲き始めた頃

今日たどり着いたのは、「ニューマジンシア」という街だ。
目ざとくわたしを見つけたエスコート待ちのNPCが、一斉に声をかけてくる。
彼らを振りきって、街の中心部へ向かって歩いて行く。

驚いた。
すっかり家なんて無くなっているこの土地に、一軒だけ建ち続ける家があった。
家と言っていいのだろうか。
周囲をアイアンフェンスで取り囲まれた、小さな庭園のようだ。
びっしりと蔦で覆われて、中の様子を伺うことはできない。

トクン。と、心臓がひとつ跳ねた。

茂りすぎた蔦に隠されて、錠前はなかなか見つからない。
払いのけようとすると、蔦に紛れて咲く野薔薇の刺で、幾つもの傷ができた。
風のせいばかりではないのだろう、意思を持つもののように蔦はざわざわと揺れて、視界を妨げる。
侵入を拒んでいるのか、侵入者を絡め取ろうとしているのか。
しなる蔦の枝が、鞭のように頬を叩く。

この庭園は、何の関係も無いのかもしれない。
そもそも、フェンスに鍵なんてないのかもしれない。
でも。
でも。。

諦めきれずに、なおも蔦をかき分けた時だった。
薔薇の蕾の意匠が施された、小さな錠前を見つけた。

無くさぬようにと、胸元に吊るしておいた鍵を取り出す。
鍵を持つ手がふるふると震えて、なかなか差し込めない。

カチリ。
確かな手応えが、硬く乾いた金属音と共に伝わってきた。
とうとう、見つけたのだ。
この鍵に合う場所はここだったのだ。


軽く押しただけで、フェンスは音もなくその入口を開いた。
絡み合った蔦が、それを邪魔することももうなかった。
鍵を差し込んだままの錠前は、いつの間にか鍵もろとも、氷が溶けていくように消え失せていた。

蔦に覆われたそこにあったものは、大きなベッドが一つ。
安宿に置かれている粗末なベッドとは、比べ物にならないくらい寝心地が良さそうだ。

わたしは、満足していた。
そう、満足だった。

【最後の一人】と知った時、そのまま自らの生命を絶っていてもおかしくはなかったのだから。
なぜ裁縫店主がわたしに鍵を寄越したのか、なぜ彼が鍵を持っていたのか、わからないことは多いけれど。
もういいの。
わたしはここに辿りつけたのだから。


様々な花の香りが混じりあって、甘い香りが眠気を誘う。
宿屋での眠りは、身体は休めても心は休まっていなかったのだ。
ぱふんと、ベッドの上に身体を投げ出した。
思った通り、ベッドは軋むこともなく、柔らかくわたしの身体を受け止めた。
真綿のようにフワフワとした感触に、身体はすぐに馴染んで一体化しようと重く沈んでいく。

静かに目を瞑る。
フェンスの入り口は開けたままだったかな?
閉めなくちゃいけないかな?
ああでも、わたしはもう動けないや。

もしかしたら、誰かがいつかここに来るかもしれない。
その時のために開けておこう。
もう鍵は消えてしまったのだし。

甘い香りが、どんどん強くなってくる。

もうなにも考えられなくなってきちゃった。
おやすみな…さ、い…



眠りについた娘を見守る誰かがいる。
風に紛れて、その思念が聞こえる。

A:「眠ったか?」

B:『ええ。そのようです』

ひそひそと交わされる姿なき声だけの者達。

B:『しかし、大丈夫でしょうか? これは、[Un-eI]を欺く行為では…』

A:「シッ!」

A:「これは賭けなのだ。たった一人でもいい。この世界に人がいる限り、我々は消えずにすむ。」

B:『ええ…。そうですね。世界の存続のために。』

そよ風が急に強さを増して、蔦を強く揺する。
話し声はいよいよ聞き取りにくくなっていく。

A:「見るがいい。もう一つの寝室を。」

B:『ええ、見えております。あそこに眠っているのは…ヴァンパ…』

A:「人選を誤ったかもしれぬが。是非もない。」

A:「我々は消えたくはないのだ。居なかった者になりたくはないのだ。」

A:「ここは時がくるまで封じよう。やがて[Un-eI]の監視が緩むまで。その時こそ新たな歴史が始まるのだ。」

B:『ええ。その時まで貴方は、冴えない裁縫屋の店主として…』

ごうっと、野薔薇の花弁を散らすほどに強く風が吹き抜けた。

B:『わ、わたくしも寂れた宿屋のおやじに戻りま…』


言葉は最後まで紡がれることなく、風にかき消され、話し声の主らの気配は消えた。


絡み合う蔦と薔薇が作り上げた空間。
それは、消えることを望まぬ、自在に動くこともままならぬ、電子世界の住人が生み出した、
彼らの唯一の希み。

いつかその時がくるまで、深く眠り続けるただ一人の人。
満足の表情を浮かべ、ただただ眠る。


最後の一人の眠りを覚まし、新たな時代を築くのは…?
あなたかもしれない。




それとも
あなたが最後の一人となって、ここで眠ることになるのかも…


  • 最終更新:2015-03-13 22:46:50

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